なかなか本業(企業法務)が忙しくてあまり記事をアップできておりませんでしたが久しぶりに。今日はとある書籍の紹介。(本投稿の冒頭の写真は出版社のTwitter投稿から拝借)
プロフィールにも記載しているのですが、私、ポルトガルワインのインポーターであるポルトガル・トレードが生産者を招いて主催するセミナーやウェビナーをする際、通訳のお手伝いをしています。その関係で、2019年に同社にポルトガルに連れていっていただき、その頃からポルトガルワインの虜になりつつあります。
そして最近、新型コロナウイルスの状況が落ち着いていることもあり、かなり久々にワインの試飲会がいくつか開催されていますが、11月に、渋谷のTRUNK Hotelで開催されたプロ向けの試飲会「ポルトガルワイン グランドテイスティング」に参加しました。
そこで改めてポルトガルワインの魅力を再確認した直後、「ポルトガルワインやポルトガルのこと、もっと知らんとあかんなー」なんて思っていた矢先、この本を見つけたので購入し読了。
この書籍「ポルトガル、西の果てまで」は、18年間・通算220日以上に渡りポルトガルを旅した著者によるポルトガル紀行の本。ワインに関する本ではないのですが、個人的には書かれている各地域の歴史的な部分とか地理的な記述とかが結構あって、とても面白かったし勉強になりました。あと実際にワインに関連する話も少し出てくるんですよね。
例を1つ挙げると、ポルトガルの北部、ミーニョ地域の東側、スペインとの国境沿いに、トラス・ウズ・モンティシュ(Tras=os=Montes)というワイン生産地域があります。この地域自体については日本ソムリエ協会が発行している教本にも簡単に記載があるのですが、この地域が激しい山岳地帯であって、気候の特徴と共に、農業と牧畜くらいしかない山村が多く、他の地域に比べて全体的には貧しく様々な面で過酷な土地ながら、ポルトガル建国以前の古い歴史と文化が今も暮らしの中に生きている、ということに本書では触れています。こういった情報って、ワイン関係の本にはなかなか書かれていない。
そういったポルトガル国内の様々な地域や地方に関する内容の中で、今回この本を読んで1番の発見と言えるのが、アルバリーニョの名産地の話。
ヴィーニョ・ヴェルデ、と呼ばれるワインはポルトガルの北部の同名地域で作られるワインの総称ですが、このヴィーニョ・ヴェルデ地域でアルバリーニョという葡萄品種で作られるワインのサブリージョンとして最も有名なのが、モンサォン・メルガッソという地域。
ヴィーニョ・ヴェルデのワインは、この地域で作られたアルバリーニョのワインでないと、ワインの表ラベルにAlvarinhoという葡萄品種の名称を他の品種の記載なく単独で載せることが禁止されています(2019年11月時点で把握している内容なので、もしかするとルールが変わっているかもしれません)。それくらい、アルバリーニョのメッカな地域。
一方、ミーニョ川を挟んでお隣、スペインのリアスバイシャスでも、アルバリーニョ単一品種による白ワインが作られていて、結構有名です。
このリアスバイシャスの南側と、モンサォン・メルガッソは結構近いのですが、今回この本を読んで、「そうなの!?なるほどなぁ。」と思った記述がありました。この書籍は、過去に筆者がウェブサイトで連載したエッセイを改稿再編成したものなのですが、当該ウェブサイ上のエッセイから一部抜粋してみます。
スペインのガリシア地方といえば、ガリシア語がいまなお話され、あの「巡礼の道」終着点のサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂があり、タコが大名物の土地である。国境となるミーニョ川をはさんでイベリア半島の北と南の地域は、ポルトガルとスペインの関係以上に、歴史的にも文化的にも長く密な交通があった。ケルト文化はポルトガル北部にもガリシアにも残っているし、ガリシア語とポルトガル語はとてもよく似ていて、学術的にはポルトガル語はガリシア地方とミーニョ地方で生まれたと言われている。
「ポルトガル 食と英語の旅 第13回」より引用
このモンサォンとメルガッソという地域が、リアスバイシャスの南部地域と歴史的にも文化的にも密な交通があった、というのは、言われてみればそりゃそうなんですが、改めての発見。そして何よりこの書籍を読んでいて発見だったのは、この2つの地域は、ミーニョ川を隔てている、といっても目と鼻の先くらい近い、ということ。ドウロ川を隔てて、というのとは訳が違う、と。Google Mapでいろいろ見てみると、更にそれがよく分かる。
どのくらい近いってこのくらい近い。。。
しかもミーニョ川って谷底にあるわけではなくて、モンサォン側は比較的平野なんですよね。メルガッソの方に行くと、少し丘陵っぽさが出てくる場所が増えてきます。ただいずれにしても近い。
上記のワイナリーは少し丘陵にあるので斜面がありますが、非常に傾斜のある丘陵地帯にワイン畑がある、というよりも、もう少しなだらかな丘陵か比較的平野な場所にワイン畑が結構あることも多そうです。
以前、ポルトガル・トレードの代表のPauloに、「モンサォン・メルガッソ」のアルバリーニョとリアスバイシャスのアルバリーニョってどんな違いがあるの?と尋ねたことがあるのですが、その時の答えは、「基本その点での違いはない」というものでした。その時は意味が分からなかったのですが、今回この本を読んで、Google Mapで色々見て、少しその意味するところが感じ取れたかもしれません。
もちろん、実際に行ったわけでもないし、まだ分からないことも多いけれど、両者を国で分けて比較する意味は、あまりないのかもしれません。モンサォン・メルガッソの土壌は花崗岩が多いようですが、リアスバイシャスも花崗岩土壌の場所が多いと聞いています。もちろん、リアスバイシャスというワイン地域も広いので、ミーニョ川沿いにあるCondado do TeaやO Rosalといったサブリージョンはモンサォン・メルガッソと目と鼻の先にある場所も少なくないものの、もっと離れた場所にあるRibeira do Ulla、Val do Salnes、Soutomaiorといったサブリージョンのアルバリーニョは、また全然違うんでしょうね。
一方、モンサォンとメルガッソあたりでも地形も違います。標高の高い山の位置や丘陵の感じも違うから、むしろその辺りでもこの2つの地域で結構差が出るのではないか、という感じもします。メルガッソあたりはモンサォンに比べて更に丘陵に囲まれており、大西洋から更に離れるので(といっても2つの町は車で30分程度の距離)、大西洋からの気候の影響をより遮るという違いはありそうです。標高が高めなHill Sideのワイン畑もメルガッソのほうが多そうなイメージがあります(ただそういったところにどれだけワイン畑があるかは確認しきれていない)。メルガッソのあたりでミーニョ川は少し北に折れ曲がっているので、ミーニョ川沿いのワイン畑でメルガッソの東側にある畑は西向きになると思われ、そういった違いがでるところもあるのではないか、という気も少ししています。
でも、その2つの地域だからこういう違いがでる、と言うのは難しい、という印象もあります。まだ勉強不足でよく分かってません。他のヴィーニョヴェルデ地域に比べて雨量が少なめなのは共通。また標高は高すぎず斜面は緩やかなのが共通しているワイン畑も多そうで、陽もよくあたり、ただ昼と夜の寒暖差はきちんとあるので、酸味を確保しながら、味わいの豊かなアルバリーニョができる、というのはどちらの地域でも共通していると思います。また、ミーニョ川付近のワイン畑の標高は50m−150mくらいで、傾斜は緩やか、ミーニョ川の影響で気候の変動も若干緩やかになる(水の影響で暑さが少し和らぐこともあれば、日中などに水が蓄えた熱が寒い時期に寒さを和らげたりする)ことで、果実の凝縮感が出てくる一方、Hill Side(メルガッソの南の方など)は350mから400mくらいの標高の畑もあるようで、丘陵にあるワイン畑もその場所その場所で斜面の傾斜や向きも変わっていて、そういう意味でもこの辺りはMicro Climateで場所によってワインの特徴が変わるようです。だから2つの地域で比べて語るのは、適切ではないことも多いのかもしれません。
まだまだ分からないことだらけですが、ポルトガルって情報少ないから、逆に気になって調べたくなるんですよね。。。そうだ、今度別府さんにきいてみよう(笑)。
それにしても、気候や土地だけではなく、歴史的なことや文化的なことも知ると、更に色々考えさせられる。この場所はなんといっても、スペイン方面からの侵略を防いだ最前線の地域ですしね。奥深いなぁ。
色々なことを考えさせてくれた書籍でした。この本に出会えてよかった。